自宅で缶詰になって記事を仕上げる俺のもとに
彼女が差し入れを持参してくれた
二人で手製の弁当に舌鼓をうちながら
どういうわけか彼女のほうから
言葉遊びをしよう、という発案がなされ
自分の名前を一文字ずつ頭文字にして
自己紹介文を作ることにした
「俺はかつひろ、だから…そうだな…
かならず明治政府の
つみを暴いて世間に
ひろめてやるぞ汚職政治家ども覚悟し
ろ
っていうのは」
咄嗟にしては上出来だと自分では思っていたが
彼女から「いろいろ突っ込みたいけど先ずはその
最後の“ろ”の置いてけぼり食らってる感を何とかしてほしいわ」との
駄目出しを頂戴した
「じゃあ次は妙さんの番だ」
二文字だから簡単だな、と俺が言うと
文字数少ない方が却って難しいんやで、と彼女が思索する
「よし決めた、これでいこ」
彼女は咳払いをして俺を真っ直ぐ見つめながら軽く息を吸った
「たくましくて
えをかくひとがすき」
あっこれ単にうちが克はんを好き言うてるだけやわ、と
目の前でコロコロ笑われる
俺は照れくさくて視線を逸らしながらもつられて苦笑した
約十年間
一度も笑わずにいた俺が
この人と居ると笑わない日は無い
妙さんの笑いが落ち着いてから
逸らした視線を彼女に戻して訊ねてみた
「俺は、たくましいだろうか」
「…内務省を爆破しようとするくらいには、なあ」
2016/06/20