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椿堂


汗やら泥やら返り血やらが染みた制服を脱ぎ捨てて
湯浴みを済ませてから
おまえが眠る部屋の前に腰を下ろし、そっと囁く

「おい」
「医者の見立てではもういつ出てきても構わんらしいぞ」
「さっさと這い出て母親に楽をさせてやれ」
「…いや、おまえが出てきたらそれこそ
楽という言葉がどこかへ消え去る日々が始まるんだろうが」

俺の前に座した、部屋の守り目たる女が笑みを零す
「らく、は消え去りますが
たのしい、が訪れますわ」

どうだか、フン、まあいい、はやく出てこい、と
部屋の入口を緩慢な動作で叩く
激しく性急に叩いては逆効果だ
父親の荒技を知るには時期尚早、ますます引きこもらせてしまうだろう

光なき暗闇
生温い水
無数に弾ける気泡
規則的に低く響く波動
糧にせよと流し込まれる紅血
それらで満たされた柔い部屋の中におまえはいる

おまえが男子か女子かは未だ知らないが
俺が内心女子であれと願っているから
どうせ男子なんだろう
十月十日もこの女の中で
ぬくぬくと眠りやがって
うらやましくて仕方がない

はやく出てこい
出てきた暁にはおまえを厳しく鍛え上げてやる
士道を纏った肩で風を切って新時代を闊歩する、
そんな人間に育て上げてやる


2017/12/15